片道2時間をかけて、私は今日も会社に向かう。
木造の駅舎から、紺色のラインがはいった電車に乗り込んだ。
乗り込んで入り口の扉が閉まる音を聞くと、振り返って窓から外を見ようとした。
外は夜の黒をすでにたっぷりと吸い込んでいて、窓は外を透かすことをやめ、そこには自分の姿が映っていた。
自分の顔を見るのはえらく久しぶりに感じられ、瞬間、体に力が入ったのがわかった。
目を横にやると、座席はスーッと一列空いていた。
おやっと思い周りを見渡すと、車内には私以外に乗客は誰もいなかった。
しかしなんだか私には、車内にぽつぽつと等間隔で茶色の存在が立っているのが感じられ、少し安心した。
これは小学校のときに習った、点描画を描いているときの感覚に似ている。
私は入り口に体を向けなおし、もう一度窓を見る。
外の様子を見るために、額が付くくらいまで顔を近づけた。
肌寒い。
外には草原が広がっていた。
ラベンダーのような紫がぽつぽつと顔をだしている。
ガサガサしてかゆそうな木の表面を剥いでしまいたい。
線路に沿って木が立ち並んでいる。
僕はリュックから、お母さんのカーディガンを取り出して羽織った。
僕には少し大きくて、でも手のあたりまですっぽり包んで暖かい。
ラベンダーっぽい匂いが鼻の先を通り抜けていったが、それがカーディガンに染みたお母さんの匂いなのか、それとも電車の外の匂いなのか僕には分からなかった。
リュックの中にはお弁当の匂いが充満していた。
もしかしたらお弁当の中の汁的な何かが漏れ出しているかもしれない。でもまあいいや。
僕は誰もいない座席の真ん中に座った。
どんどん景色が流れていく。
変わらず草原が流れていくのだけど、この電車はガタゴトと縦に大きく揺れるので、なんていうか、飽きが来ない。
ぽつぽつとある紫色が電車のスピードを確認させてくれるし、ああそれに何よりたまにふっと流れていくラベンダーっぽい匂いが麻薬のよう。麻薬って何ですか。見たことないです。
いつのまにか眠っていたみたい。
気がつくと外は夕焼け色になっていた。
電車は知らない名前の駅で停まっていた。
僕は慌てて電車を降りる。
聞いた事のない駅だ。
木造で、木の古びた感じが地元の駅に似ている。
ずい分遠くまで来てしまったみたいだ。途方に暮れる。
焦燥でぼうこうがざわつく。
久しぶりにワクワクしている。