眠るコンビニ


 そして紙パックのミルクティーとポテトチップスとイカの干した感じのやつとを買って
この成年はこれから家に帰って休むのだろうか。映画とか借りて観るのだろうか。だらしない。
成年が暗がりの部屋で映画を鑑賞し、イカ干しを「すちゃっ」やってる姿は
容易に想像され、なぜなら僕は日々のほとんどをそうして過ごし、
それなのに成年のその姿を想像するや、だらしないと思ってしまうのはなぜだろう。
なぜだろうというのも、僕はだらしなく無い。
今こうしてだらしない成年をお客様として対し申し分ない接客を
ほどこしている僕が家に帰ったらだらしない?検証が必要である。

 どうでもいいけどこのコンビニでは紙パックの飲料のことを「チルド」と呼ぶ。
商品を補充するときに「チルド見てきます」と言い、レジをもう一人の店員に空けわたす。たびになんか絶望的な気持ちになる。

 たかだか10人20人の店員の間のために、そんな近未来的なかっこうよい「チルド」とか共通了解を設定してるのが、嫌だ。
本当はそれは全国レベルで統一するための共通言語なのかもしれない。
しかしそれは僕の外の話だ。店長の外の話だ。誰のための言葉。主語のない言葉。
僕には「チルド」の響きが、退屈な空間を埋めるためのお飾りに思えてならない。
食べ終えたソラマメのからにソラマメのからを入れて何かを満たすような例えばそんな。
「これはチルドっていうんだよ。」と教えられほう、と覚えしばらくすると、紙パックでいいんでないか何だわざわざ、
退屈な作業をしながらそんな事を思わせ時間を上手に誤魔化すために仕掛けられた
コンビニを司る者たちの戦略なんじゃないか。と、ループするくだらない脳内。上回る退屈の作業。
始まりは二人。「あれはチルドっていうんだよ。」

 ほう、そうか。
釈然としない疲労感で時間が分からない。
手の気持ち良いところを押しながらレジに表示された時計を見る。
5月14日 02:40。あと三時間半か。
いや、嫌いではない。退屈な作業の連続。嫌いではない。
逆にそういうのから普遍的な哲学的なのを見出して満足するタイプ。ああここ押すと気持ちいい。
肩のストレッチに取りかかろうか。いや、まず新聞の返品をやっちゃおう。
あ。そういえば、作家にでもなって印税で暮らそうと、最近思ってるんだった。

 

 “時間を売っている”
 僕の好きな作家がつぶやく。 「時間を売るような事だけはしたくない」と。
僕はつぶやきを聞いてあげたのに、ズバリ今までで一番しっくりくる言葉で僕を言い表されて しまった。
チクショウ。
作家は健康が一番だとつぶやく。
作家は料理をつくったりカメラ屋をめぐったりするのが趣味らしい。
僕はお風呂に入れるシュワシュワのやつを買ってきて、湯船につかる。シュワシュワ。
「健康が一番。」口に出して言ったはずなのに音が聞こえない。「シュワシュワ。」今度は
風呂場のなかでその音が響き合う。それが今日の昼だったか?

 時間がよくわからない。夜だ。夜である。夜であることは自明の事実である。いいぞいいぞ俺の文章力。
文章を書いて暮らそう。文章を書いて暮らそう。
日付が曖昧だ。2日前に入ったバイトが20日だから今日は22日か?いや、昨日を越えて今日は23日。
おとといミルクティーとポテチとイカのやつを買っていった成年が入ってきた。
今日は友人2人を引き連れている。テンション高いね。なんとなく寂し・・・くない。なぜ。
寂しいくらいなら分かりやすくて文にしやすいのに。さびしくない、いらだたない。
何もない。日々もない。あるのは積み上げられた商品を見つめる僕の眼。
僕は眼。
成年は小さく礼をして店を出る。僕に気づかれるか気づかれないかギリギリの小さな礼。何かに
照れている。 僕はそれに気づいているよ。ビニール袋をぶら提げて出ていく成年。ん?それはおとといの話か。
成年達はたくさんアルコールを買う。
僕はバーコードをうつ。新聞は縛ってる途中だったな。
成年達は店を出る。僕は小さく礼をして店を出る。
その足で隣町の駅まで歩く。制服は着たままだ。
春の夜は半袖で歩くにはまだ肌寒い。 近くの公園のベンチに座る。
ふう・・・。
ケイタイを店に置いてきた。
なんだか熱い気持ちの高ぶりも歩いているうちに冷めてしまった。
・・・。
別に青春的なアレではない。眼はすっかり大人だ。眼の保養というか、
それで店を出ただけ。

 コンビニに帰る。高ぶらずに帰る。
肌寒い。もう何時だろう。店を出て2時間くらい経った気でいるけど実際は40分くらいしか経ってないパターンだな。
自動ドアが開く。
「どこ行ってたんですか」
もう一人の店員が言う。
何の話を書けば作家になれるんだろう。うー。
ウサギは寂しいと死ぬらしい。とりあえずそういう話を書いてみよう。
「ちょっと。」
もう一人の店員が言う。怒っているのか?
「ちょっと。」
今度は僕が口に出して言ってみる。よかった、聞こえた。
空気の波が伝わって音は聞こえるらしい。そんな話も悪くないな。
縛りかけの新聞を縛ろうとした。手が震えている。
よかった、手が震えている。
「ねえ」
僕はもう一人の店員に話しかける。
彼は応える。よかった、ウサギでなくて。空気でなくて。
手が震える。止まらない。

 

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